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中国と接する「小国」ベトナムのリアリズム

記事の概要

12月10日にベトナムのハノイで日本大使館主催で行われた天皇陛下誕生日レセプションで、ベトナムの政府関係者や知識人などから、日本とベトナムは協力して中国の威圧に対抗すべきだという声が多く聞かれた。

その背景として、ベトナムが領有権を巡って中国と係争中であることだけでなく、同じ共産党統治の国家として中国を非常によく理解していることが挙げられる。

また、有史以来現在に至るまで大国である中国から脅威を受け続けていたこと、アメリカに国土を蹂躙されたこと、現代になっては米中2大国に翻弄されてきたというこの国の歴史も背景にある。

元の記事を読む→ 【2013年12月20日:JBpress

大国に翻弄されてきた小国ベトナム

記事元のJBpressは僕もほぼ毎日チェックしているネットメディアです。アエラほどではありませんが、どちらかと言えば右寄りです。右寄りの視点で書かれていることを念頭に読むならば、なかなか勉強になるメディアだと思います。

今回も良記事でした。ベトナムって我々日本人にはあまり馴染みのない国です。ましてや、その政治文化なんてのはまったく分からないわけで、こういった記事を読むことで勉強させてもらおうと思っています。

記事がけっこう長いのですが、ベトナムはアメリカや中国のような大国に翻弄され続け、それで国土も傷めつけられてきた。共産党同士で中国のこともよく理解している。日本とは違ったリアリズムを持った外交を展開している。ザックリ言うとそんな感じです。ぜひ元記事を読んでいただければと思います。

風化する戦禍、今なお残る戦禍

記事を離れ、ここからは個人的な考えです。戦争の被害を受けたという意味では、日本も先の大戦で大きな被害を受けました。国家として加害者であったか被害者であったかは別の議論として、国民が戦争の被害を受けたことは間違いのない事実です。

しかし、同じ戦禍を受けた日本人とベトナム人ですが、今でも同じ戦禍を受けた者同士かというと、僕にはそうは思えません。端的に言うと、日本人にとって戦争被害とはすでに風化した過去のものであるのに対し、ベトナム人にとってはまだ風化していない。そんなふうに感じます。

第二次大戦が終わってから70年が経った。これに対してベトナム戦争は40年前に終わったばかりだ。それもあるかもしれません。ですがなんと言いますか、被害が語り継がれてきたのか、記憶に残っている戦禍なのか。そういう違いがあるように思うのです。

日本は忘れすぎている。平和ボケしている。ベトナムはそうではない。根拠はないのですが、そんな印象を持っています。

ホーチミン市美術館で見た絵

そういう思いを抱かせてくれた絵があります。僕は今年の7月にホーチミン市に旅行に行ってきました。ホーチミンシティを訪れるのは約20年ぶりで、高いビルが建っていること、街角からアオザイを着ている人が消えていることなど、この街の大きな変化を感じました。

僕はいわゆる観光地はほとんど行かない派で、どんな国に行っても朝から晩まで街の中をウロウロ散歩します。あっちの路地に入ったり、こっちの市場をのぞいたり、一日中そんな感じです。

ぶらぶら歩いていると小ぎれいな洋館がありました。フランス時代の建築物だな、と思って入ってみると、ホーチミン市美術館でした。様々な展示物があったのですが、衝撃を受けたのはベトナム戦争を描いた絵画でした。

写真が上手く取れていないのと、写真とリアルとではやはり違いますので、どこまで伝わるかわからないのですが。以下にいくつか紹介します。僕が感じたものが少しでも伝わればと思います。


ホーチミン市美術館戦争画

一番強い衝撃を受けたのがこの絵です。小学生の男の子が描いた絵です。燃える家、泣き叫ぶ子供、倒れているのは父親でしょうか。背景は黒とも青とも言えない、何とも強烈な色使いでした。戦争の悲惨さが胸に突き刺さってきます。

ホーチミン市美術館戦争画

ヘルメットにUSと書かれています。反米闘争のプロパガンダのポスターです。ベトナム戦争は1960年から75年まで15年間の長きに及びました。

ホーチミン市美術館戦争画

この絵は色使いがすごく鮮やかで、凛とした闘志というか、秘めたる思いというか、そういうものが伝わってきました。女性の後ろの老人が持っているのは竹槍です。

ホーチミン市美術館戦争画

こちらは若い女性兵士を描いた絵です。すごく柔らかいタッチの穏やかな絵なんですが、訴えるものが非常に強いです。こんな若い女の子が銃を持たなければならない。それが戦争だったのです。


ベトナム戦争が終わって40年です。1枚目の絵を書いた男の子は今では50代でしょう。自分が味わってきたものを、子供だけでなく孫にも語っているかもしれません。語り手がまだたくさんいて、語るべきことがたくさんある。そしてその脅威の源は昔と変わらず今でもまだそこにいる。

国民の中にそんなベースがあるからこそ、ベトナムは大国に翻弄されてきた歴史を決して忘れることなく、自国が生き残るための外交をリアリズムを持って行えるのではないでしょうか。

我々日本人も戦争の歴史を風化させてはいけない。語り継ぐことがこの国を守ることになるのだ。今回の記事を読み、半年ほど前に見た絵を思い出し、歴史の風化が国を滅ぼす、そんなことを思いました。